まず、源泉徴収が必要なものの原則(法律)はどうなっているか?
下記の報酬・料金等の支払をする者は、その支払の都度それぞれ所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。
【所得税法 第204条第1項第1号】
写真の報酬 :雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬・料金
デザインの報酬 :クラフトデザイン
茶碗、灰皿、テーブルマットのようないわゆる雑貨のデザイン
【所得税法 第204条第1項第2号】
税理士、弁護士、公認会計士、司法書士等の業務に関する報酬・料金
【所得税法 第204条第1項第4号】
職業野球の選手の業務に関する報酬又は料金
【所得税法 第204条第1項第5号】
芸能又はラジオ放送やテレビジョン放送の出演・演出又は企画の報酬・料金
源泉徴収が必要かグレーゾーンに近いもの
■源泉徴収が必要
- スポーツ選手を撮影したカメラマンへの報酬
⇒ 写真を撮影するのはカメラマンで、そのカメラマンには所定の報酬が支払われ、印刷物へ掲載するための「写真の報酬」に該当するものと考えられる。
■源泉徴収必要なし
- インターネットホームページだけに掲載する写真の、カメラマンへの報酬
⇒ 印刷物へ掲載しない以上、源泉徴収を要する「写真の報酬」には該当しない。
- 印刷物へ掲載するためではない社内用の写真
⇒ 印刷物への掲載は予定していないので、所得税の源泉徴収を要する「写真の報酬」には該当しないものと考えられる。(もし社内報等印刷物へ掲載する場合は源泉徴収が必要)
- スポーツ選手への報酬(肖像権の対価)
⇒ プロスポーツ選手本人への報酬はカメラマンに対する「写真の報酬」とは異なる。スポーツ選手が持つ肖像権の対価は「写真の報酬」には該当せず源泉徴収は必要ない。
- 対価として支払うデザイン料が極めて少額の場合
⇒ 例えば、建築物の設計と施工を一括して請け負わせた場合に、その対価の中にデザイン料が含まれている場合には、通常そのデザイン料部分について源泉徴収しなければならない。しかし、デザイン料に相当する部分が極めて少額であると認められる場合には、これを区別して所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなくても差し支えない。
現状さらにグレーゾーンになるものは種々様々ある
- WEB広告用の写真
解釈其の1.“紙の印刷物へは使用しない”予定なら、所得税法施行令320条1項では「(源泉徴収が必要な報酬は)雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真」と規定している以上、文理解釈として、源泉徴収不要であると考えられる。
解釈其の2.WEB広告でも印刷はでき、またこの法律ができた当時がWEB広告のなかった時代のものなので、源泉徴収が必要との解釈もできる。
- 動画制作の法人が個人事業主に動画撮影・編集・構成・監修等の業務を依頼した場合(制作動画はYouTubeやHPに掲載予定。著作権はすべて法人に帰属される)
解釈其の1.所得税法204条はYouTube等動画配信がまだ発展する前に創設されており、現状どう取り扱うか明らかにしたものはない。
解釈其の2.ただ、所得税法204条第1項第5号では、テレビ放送について、本業務に対する報酬は源泉徴収が必要とされている。
- WEB関連業務を行う法人が、委託先の個人事業主と契約した場合
解釈其の1.所得税法施行令320条1項に動画が含まれるかも含め、税制が現在の実務に追い付いていない。
解釈其の2.が、否認事例等はまだ見当たらないものの、実務では「源泉徴収をする方が無難である」という対応になっていることもあるようである。
- YouTubeの動画撮影を、カメラマン(個人事業主)に業務依頼した場合
解釈其の1.ホームページは印刷物ではないから、ホームページ掲載用の写真撮影の報酬は源泉徴収を行う必要はない。
解釈其の2.税務署に確認したところ所得税法施行令320条4項に該当するので源泉徴収して欲しいと言われた、という事例もある。
以上のように、源泉徴収が必要か必要でないかは、YouTube等新しい業態のビジネスに法令がまだ追い付いておらず、人によって解釈が異なる場合もある。
ただ、確定申告をすればトータルの納税額は変わらないので、源泉徴収で先に納税するか、確定申告で後に納税するかの話に現状はなっている。
源泉徴収の有無
報酬・料金を貰う側が個人の時のみ、問題となる
支払う側\貰う側 |
個人 |
法人 |
源泉徴収義務者 |
△ |
× |
源泉徴収義務者でない |
× |
× |
*源泉徴収義務者:源泉徴収の対象となる、所得の支払いをするもののこと