所得拡大促進税制における賃金台帳とはどういったものかについて、検討してみたいと思います。
※以下、私的な見解を含みますので、その点はご容赦下さい。

 

前提として、以下の例で考えてみます。
A社とB社は兄弟会社です。
出向者(甲氏)に係る給与を出向元法人(A社)が支給しており、
出向先法人(B社)が出向元法人(A社)へ甲氏の給与負担金を支払っている場合における、
出向先法人(B社)の所得拡大促進税制の適用について検討してみます。

措置法通達42の12の5-3では、
出向先法人において賃金台帳に出向者を記載している場合にはその出向者に係る給与負担金の額は本制度の対象となる給与等の支給額に含まれる旨が示されています。
ここで、「出向先法人において賃金台帳に出向者を記載している場合」というのは、
A社が作成しているその甲氏に係る賃金台帳の写しをA社から取り寄せて、
同じ記載内容のものをB社にて保管しておけば「出向先法人において賃金台帳に出向者を記載している場合」に該当する、という理解で正しいのでしょうか。

あるいは、賃金台帳の写しをA社がB社に送ったとしたとしても、
原本のあるA社でのみでしか、所得拡大促進税制の適用はないということになりますでしょうか。

これについて、
同措置法通達に定める賃金台帳は労働基準法108条に規定する台帳だと、考えられます。
同法令による解釈はまちまちという意見も聞いたこともあります。以前社会保険労務士さんや監督署に確認すると、出向先では記載すべきではない等の意見もあるらしいのです。

 

しかしながら、

法律によって文言の定義が異なることはよくあることです。
例えば、「労働者」という文言は、労働法、いわゆる労働基準法・労働契約法・労働組合法それぞれによって概念が異なります。

中小企業庁公表の所得拡大促進税制の案内を見ますと、「当該出向先法人の賃金台帳に当該出向者を記載しているときには、出向先法人が支給する当該給与負担金の額は、雇用者給与等支給額に含まれます。」
とあります。
つまり、
出向先で記載することの是非については、
「出向先法人の賃金台帳に当該出向者を記載」
することを、この税制では許容した上での話ということは明らかです。

そうであれば、
それぞれの負担額の合理的な計算根拠がわかるような台帳があって、
かつ、
それぞれの法人できちんと保管(この保管ということについては、それぞれの法人で雇用契約があったとしたならば労基法108条の賃金台帳と言えるだけの要件を備えたもの)されていれば、
同一人物について、それぞれの法人で、それぞれの法人が負担した金額が所得拡大促進税制の対象になる。

というようにも考えられます。

この点、
措置法通達42の12の5-1の4において「労働基準法第108条に規定する賃金台帳(以下「賃金台帳」という。)と定義されております。
よって、労働基準法108条に規定する賃金台帳を出向先法人が記載する必要があるか否かで判断(記載する必要がないのであれば不要)するとも考えます。

 

しかしながら、

措置法通達42の12の5―1の4
には、

措置法第42条の12の5第3項第3号の給与等とは、
所得税法第28条第1項に規定する給与等
(以下「給与等」という。)
をいうのであるが、

例えば、
労働基準法第108条に規定する賃金台帳
(以下「賃金台帳」という。)
に記載された支給額のみを対象として同項第4号及び第5号並びに第9号及び第10号の「給与等の支給額」を計算するなど、
合理的な方法により継続して給与等の支給額を計算している場合には、これを認める。

とあります。

「例えば」や「など」という文言があります。
よって、
労働基準法第108条に規定する賃金台帳
が、例示的に示されてはいるものの、
労働基準法第108条に規定する賃金台帳
の有無が、
所得拡大促進税制の唯一無二の判断要素ではないということなのでしょうか。

なかなか、樹海に紛れ込んだようで、読み取りにくいですね(;^ω^)

結論をわかりやすく記載した詳細版は、こちらをご確認下さい。(根拠条文付き)➡➡➡https://note.com/nice_eel90/n/n06659d5a3602
(有料版 1記事275円)